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高2レベルの文章

 下線部訳はきっちりとした訳を、それ以外は意味を取れる程度に読んでいきましょう。ラストの文は下線部訳の方法論と重なりますが、ここでももう一度説明しておきます。

  It is said that modern Japan's polluted air has begun to spoil the beauty of art treasures which have been successfully preserved for about 1,200 years. Such is the case in the famous Shosoin in Nara. Theoretically, modern science can prevent polluted air from destroying ancient masterpieces of art and architecture. But in fact, the pollution of the air increases at a much faster rate than the preventive methods of scientists. Modern civilization seems to have reached the point where any scientific attempt to control damage inflicted by pollution must prove useless.




It is said [that modern Japan's polluted air has begun to spoil the beauty of art treasures (which have been successfully preserved <for about 1,200 years>)].
現代日本の汚染された空気は、約1200年巧く保存されてきた美術品の美しさを、台無しにし始めている、と言われている。

 It is said that SV./S is said to do.「SVすると言われている」は頻出表現。仮主語構文なので、真主語であるthatから[ ]を始めておきましょう。
 that節。modernは形容詞、Japan'sは所有格だから形容詞のような物、pollutedは過去分詞(名詞が出てきていないから述語動詞になる可能性はゼロです)、airがやっと出てきた名詞。これがthat節の主語ですね。ということは、has begun to spoilがV。正確にはhas begunがVでto spoilはbegunの目的語なのですが、意味で考えればhas begun to spoilでまとめて考えた方が良いですね。
 spoilは「台無しにする」。目的語が子供などの場合は、「甘やかす」という意味にもなりますので覚えておきましょう。
 the beauty of art treasureは名詞、of名詞は前の名詞にくっつけましょう。

前置詞句の役割

前置詞+名詞 の90%は副詞句
ただし、of+名詞の90%は形容詞句で前の名詞にかける


 the beauty of...という名詞の後ろにwhich have been...とSVが来ているので、形容詞節ですね。( )を始めます。have been preservedという完了形ですから、後ろのfor Aはセットで考えて「Aの間〜してきた」と訳しましょう。よって( )は文末まで。ということは[ ]も文末までですね。

 successfullyは辞書を引けば「巧く」「成功して」ですが、これは暗記するような単語ではないでしょう。派生語もすべて暗記する人は結構多いと思うのですが、これは効率が悪いだけでなく、「丸暗記で対応」することは応用力が欠落することにもなるので、害の多い覚え方です。successfullyは「successの副詞」と覚えておけば、「成功」の副詞の訳を日本語で考えればいいわけです。形容詞なら名詞を修飾するように、副詞なら主に動詞を修飾するように訳を考えればいいのですから、その場で訳を作ることができるでしょう。
 すべて暗記で対応すると、「successは名詞で"成功"」「successfulは形容詞で、"成功した"」「successfullyは副詞で"成功して・巧く"」とすべて覚えねばなりませんが、派生語はその場で意味を考えるというやり方で行くと、「successは名詞で"成功"」「形容詞は-ful」「副詞は-fully」を頭に入れるだけで済みます。また、仮にsuccessfullyを見たことがなくても、-lyと言う語尾から副詞と想像がつくので、「successの副詞だから…」とその場で意味を類推することもできます。

 さて。この文の構造をもう一度示しておきましょう。

It is said [that modern Japan's polluted air has begun to spoil the beauty of art treasures (which have been successfully preserved <for about 1,200 years>)].

 こうして文構造が掴めれば、後はかっこの外側から順番に訳していって、日本語を整えて完成です。

 「前から区切って訳せ」と書いてある速読用参考書をよく見かけますが、この「前から切って訳せ」という主張には大きな問題があります。たしかに、文構造をきっちり捉える能力が身についている人は、前から読んでいってある程度切れ目を見つけることもできるでしょうが、そもそも、「切れ目が分かる」のであれば文構造把握の練習をする必要がないレベルにあるのです。英文解釈の勉強を始めようという初学者は、「前から区切って読め」と言われても、まず区切り方が分かりません。これは、演習を幾ら繰り返しても、勝手に身につく物ではありません。理詰めで文構造を捉える思考回路を養わねば、切れ目を見つけることはできないのです。
 つまり、「文全体を見て、文の構造を論理的に捉える」訓練をまずきっちりと行うべきです。前から読むとか速く読めるとかは、それがきちんとできた結果、自然とできるようになっている物であり、「速く読むこと」自体の練習は必要ありません。むしろ、いっこうに解釈能力が上がらないことを考えれば、害しかないとも言えます。「習うより慣れろ」ではなく、「きちんと習ってから慣れろ」の精神で取り組むべきです。


 では実際に訳しましょう。主節から始め、次第に内側のかっこの中へ進んでいきましょう。

「〜と言われている」
→「現代日本の汚染された空気は美術品の美しさを台無しにし始めている、と言われている。」
→「現代日本の汚染された空気は、約1200年巧く保存されてきた美術品の美しさを、台無しにし始めている、と言われている。」

 あらかじめ捉えた文構造通りに、かっこの内と外を適当に混ぜてキメラを作ってしまわないように、常に全体を視野に入れながら訳を作りましょう。



Such is the case in the famous Shosoin in Nara.
有名な奈良の正倉院での事例が、それである

 suchは基本的に形容詞なので、be動詞の前に来ているのは不思議ですね。これ、SVCのCが文頭に出て、CVSの語順になっている物なのです。強調というよりは、「新情報は文末に」という英語の基本原則に倣った物でしょう。suchは前文の内容ですから、文末より文頭に出したかったのです。



Theoretically, modern science can prevent polluted air from destroying ancient masterpieces of art and architecture.
理論的には、現代科学によって、汚染された空気が古代の美術・建築の傑作を破壊しないようにすることは可能である。

 theoreticallyはtheoryの副詞。「理論的には」という意味ですが、「理論的に」ということは「実際とは違って」というニュアンスがあるので、後ろにbutが来ることが多いことを覚えておくと良いでしょう。
 prevent A from doingは「Aが〜するのを妨げる」
 「現代科学は、汚染された空気が、破壊することを妨げることができる」という直訳も、意味は分からなくはないですが、prevent A from doingは無生物主語構文で頻出の動詞です。実際に主語は「現代科学」で無生物なので、無生物主語構文の訳を適用しましょう(参照:無生物主語構文)。
 destroyは「破壊する」、de(否定)+structure(構造)です。ancientは「古代の」、初めのaはアルファベット通りに「エイ」と読みます。masterpieceは「傑作」、master(親方の)+piece(作品)ですね。合成語なのでアクセントは前にあります。合成語を後ろアクセントで読んでしまうと「文字通りの意味」になります。white houseは、前アクセントだと「アメリカ大統領官邸」、後ろアクセントだと「白い家」です。



But <in fact>, the pollution of the air increases <at a much faster rate than the preventive methods of scientists>.
しかし実際のところ、大気汚染は、科学者の講じる予防法よりもはるかに速い速度で進んでいる。

 theoreticallyが前文にあったので、やはりbutでひっくり返してきましたね。こちらは現実の話です。

 at a 〜rateは「〜な割合で」。割合・比率を表す場合に使われる前置詞atがよく空所補充問題に出ます。今回はfasterがついてますから、rateは「速度」と訳しても良いでしょう。速度は、時間と距離の割合ですからね。increaseは「増える」と覚えている人が多いでしょうが、数量が増すだけでなく程度が増すことも表せるので、ここは「速いスピードで進んでいる」としておきましょう。
 muchは比較級の強調です。

 preventiveはおそらく多くの単語集に載っていない単語でしょうが、preventとtiveに分解すると、tiveは形容詞に多い語尾ですから、「preventの形容詞かな」と類推できると思います。「妨げる・防ぐ」の形容詞ですから「妨げるような・防ぐような」と訳しておけばいいのです。
 入試で分からない単語が出てくるのは、どうしても避けられません。出てくる可能性のある単語を全て覚えるのは、物理的にも時間的にも非常に困難です。ですから、未知の単語を類推する方法を理解し、演習を通して実践できるように鍛えていかねばなりません。

未知の単語の類推法

1.単語を分解してみる→知っている派生語はないか、知っている語源はないか
2.動詞の語法から類推する
3.同じ構造の文はないか探してみる
4.文脈判断

 preventiveは1のパターンですね。「知っている語源はないか」というのは、例えば、predictという語を見たときに、「preが"前に"って意味で、dictはdictionaryのdictだから"言葉"、ということは前もって言うだから"予言する"かな」と推測する手法です。
 2と3については、いずれ登場することになるでしょう。4についてもいずれ話をしますが、「何となく意味が通じる方で…」という曖昧な物ではない、ということだけ頭に入れておいてください。



Modern civilization seems to have reached the point (where any scientific attempt (to control damage (inflicted by pollution)) must prove useless).
汚染が与えた損害を制御するようないかなる科学的試みも、役に立たないと分かるに違いないような点に、現代文明は到達したかのように思われる。

 まず、It seems that SV/S seem to do「SVように思われる・SVようだ」を押さえておきましょう。modern civilizationがS、seems to have reachedがV、the pointがOですね。reachは「reach A」の形で「Aに到達する」です。前置詞はとりません。

 the pointのあとのwhere SVは、名詞の後なので( )。動詞になる可能性のある語はattempt、inflictedなどもありますが、ここは絶対にmust proveです。助動詞がついているのにVにならないと言うことはあり得ません。
 となると、attemptは名詞。attemptは名詞だろうが動詞だろうが、後ろにto doを捕ることが多いです。「〜する試み・〜することを試みる」です。to control以下はattemptを修飾。inflictedは、動詞ではない以上、過去分詞ですね。後ろにbyもありますし。なお、直訳すれば「汚染によって与えられた損害」でしょうが、過去分詞の後のby Aは能動にすれば主語なのですから「汚染が与えた損害」と訳した方が日本語らしくなりますね。受動態で訳して違和感を感じたら、能動態に直してしまいましょう。

 さて、must prove uselessの部分。

 この文章を扱っている問題集によっては、prove uselessを「役に立たないと証明した」と訳してある場合もありますが、これは間違いです。
 proveに関して覚えておかねばならないことは、prove C「Cと分かる」prove O「Oを証明する」です。I proved his innocence.という文を見て、「私は彼の無実を証明した」なのか「私は彼が無実と分かった」なのか、迷っているようではいけません。innocenceは名詞、つまりOなので(Cに名詞が来るのは基本的にbeとbecomeくらいのものです)、proveは「証明する」以外の訳はあり得ません。
 今回の場合は、後ろに来ているのがuselessという形容詞なので、uselessはOではあり得ない、つまりCなので、proveは「〜と分かる」以外の意味になる可能性はゼロです。

 英語においては、「文脈で判断」は最終手段だと思ってください。貴方がどう思おうが、proveの後が名詞である以上、「証明する」以外の訳になることはあり得ません。
 「文脈で判断」はあくまで最終手段です。どちらかと言えば以心伝心で相手の意図を読み取ろう・相手に意図を伝えようとする日本語と違って、英語は基本的に必要な情報は全て言語化されていると考えましょう(日常会話ではその限りではありませんが、少なくとも「受験問題」になっている文章はそうだと考えて問題ないです)。相手が誤解のないように話す物なので(日本と違って相手がどんな文化的背景を持っているか分からないわけですし)、理詰めで考えれば「どういう意味になるか」は一意に決まる物と思ってください。

 もうひとつ。mustは「〜にちがいない」以外の意味にはなりません。proveが「〜と分かる」という意味になる以上、つまり能動的な意味合いでない以上、mustが義務の意味になることはあり得ません。例えば、He proved to be innocent.「彼は無罪だと分かった」という文があったとして、これにmustを付けて「義務」の意味がつくことはあり得ますか?mustは主語に義務がもたらされるのですが、「彼は無罪だと分かった」という文の主語「彼」に、義務の意味を負わせることはできますか?「彼は無罪だと分からねばならない」とやってしまうと、義務は文の主語ではなく別の第三者に負わされることになりますよね。「〜と分かる」という意味では、主語に義務を負わせることは不可能なのです。

Modern civilization seems to have reached the point (where any scientific attempt (to control damage (inflicted by pollution)) must prove useless).
「現代文明は、点に到達したかのように思われる」
→「現代文明は、いかなる科学的試みも役に立たないと分かるに違いないような点に到達したかのように思われる。」
→「現代文明は、汚染が与えた損害を制御するようないかなる科学的試みも、役に立たないと分かるに違いないような点に、到達したかのように思われる。」