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2007年度中央大の文章

 2007年度の中央大の入試問題を題材に、下線部訳を練習してみましょう。

  One of the interesting things that have emerged when psychologists have researched memory is how poor many people are at assessing their own abilities. When groups are asked to rate their own memory, and then to take a series of memory tests, there is often little correlation between the two results.
  It would seem that some people who rate their memory as extremely good simply forget just how often they forget. Meanwhile, those who notice every time their memory fails them ―and report that incident to their friends, or even their doctor― are often indirectly showing just how sharp their memory is, to be able to recall these incidents in such detail.





One of the interesting things (that have emerged <when psychologists have researched memory>) is [how poor many people are at assessing their own abilities].
心理学者が記憶力を研究してきた中で立ち上がってきた興味深い問題の一つは、多くの人が自分の記憶力を評価することがいかに苦手であるか、ということである。

 interesting thingsの後にthat have emerged、つまりSVがあるので、( )が始まります。emergedは自動詞ですから、うしろのwhen SVは[ ] ではなく副詞節、< >。後ろのisは、一つのかっこに動詞は1つしかないということを考えると、かっこの外側に置かなければなりません。つまり、One of the interesting things (that have emerged <when psychologists have researched memory>) がSで、isがVとなります。ということは、how以下は[ ]でCです。
 最大のポイントは、how以下の処理でしょう。

 まず、howの役割からです。意外にこれを理解できていない受験生は多いです。

疑問詞how

howのみ … 手段・状態「どのように」
how+形容詞/副詞 … 程度「どのくらい」

 もう1つは、疑問詞の役割です。中学校1年生でやっているはずですが、意外に理解できていない人が多いところです。

 He likes apples.…これは「彼はリンゴが好きだ」ということですが、では、彼が好きな物が分からないとしましょう。
 He likes {?}. likeの目的語、つまり名詞が分からないので、疑問代名詞であるwhatに変化します。He likes {what}.ですが、「疑問詞は文頭に」「疑問文は疑問文語順に」というルールがあるので、What does he like?という文ができあがります。
 同様に、
 He gave a present to her.→He gave a present to {?}.→Who(m) did he give a present to?
 He lives in Tokyo. →He lives {in ?}.→Where does he live?

 分からない部分が疑問詞になって文頭へ、というのが疑問詞疑問文の成り立ちです。

 今回の文の場合、how poorが本来はどこにあったのか、というのが最重要テーマとなります。うしろを眺めると、明らかにare at の辺りがおかしいと気付くはずです。そこにpoorを戻してやると、are poor at assessing…、be poor at A「Aが苦手だ」という表現が見えてきます。ここまで来れば、もう問題は無いでしょう。

One of the interesting things (that have emerged <when psychologists have researched memory>) is [how poor many people are at assessing their own abilities].

 「心理学者が記憶力を研究してきた中で立ち上がってきた興味深い問題の一つは、多くの人が自分の記憶力を評価することがいかに苦手であるか、ということである」


 補足しておきましょう。

 emergeは「(急に)現れる」。研究している中で「急に現れた」と言うことですから、「明らかになった」とか「分かってきた」と意訳してもOKでしょう。

 have researchedは継続的意味合いがあるので、「調査してきたときに」と言うより「調査してきた中で」と意訳した方が日本語らしくなるでしょう。
 abilitiesは「能力」ですが、この場合は、「記憶力」について語っているのですから、ただん「能力」ではなく「記憶力」と訳すべきでしょう。同じ内容の語であっても、英語話者は単語を帰るよう努力します。難関国公立を受験する人は、同じ内容の語の言い換え表現、すなわち「相同表現」に意識を向けるよう訓練していきましょう。



<When groups are asked to rate their own memory, and then to take a series of memory tests>, there is often little correlation (between the two results).
複数のグループが、自分たちの記憶力について評価し、その後一連の記憶力テストを受けるよう求められたとき、その2つの結果の間に相関関係はほとんどない場合が多かった。

 be asked to doはask Ato doの受け身形ですが、よく出てくるので、be asked to do「〜するよう求められる」で覚えておいて損はないでしょう。
 rateは名詞だと「比率・割合」、動詞だと「評価する」です。
 andの後は、to doがあります。このand はto doを繋いでいる、つまりto rateとto takeを繋いでいると理解できます。ここで「等位接続詞の接続関係」について確認しておきましょう。

andやorの接続関係の見抜き方

1.andやorの後ろを見て、繋いでいる物の種類を確認
2.andやorの前から、同じ種類の物を探す

 be asked to rate A and to take B という構文ですから、< >は2つ目のコンマまでになります。
 a series of Aは「一連のA」。

 correlationは受験生用の単語帳には載っていない単語ですが、とりわけ難関大受験者は「類推」できなくてはなりません。……こう言うと、「出てくる可能性がある単語を全部覚えればいいのではないか」という人がいたりしますが、大学入試に注釈なしで出てくる単語を網羅しようとしたら、通常の入試用単語帳の倍くらいの量をやらねばなりません。出てくる頻度の極端に低い語までやらねばならないとなると、量が膨大な上に、出題頻度も低いのですから非常に非効率的な勉強です。何でもかんでも「物量で凌ごう」という考え方は短絡的ですし、まともな大学は「物量」ではなく「頭の柔軟性」を見たがっており、そういう視点で問題を作ってきます。

 未知の単語を類推する方法を確認しておきましょう。

未知の単語の類推法

1.単語を分解してみる→知っている派生語はないか、知っている語源はないか
2.動詞の語法から類推する
3.同じ構造の文はないか探してみる
4.文脈判断

 correlationは「1.単語を分解」を利用します。cor+relationですから、少なくとも「relation 関係」には気づけるはずです。さらに、「co 共」という語源も知っていれば完璧ですね。「共に+関係」ですから「相関関係」と類推できるでしょう。
 2については文型 4文型・構文による意味の類型)を見ておくと分かると思います。
 3については、この項の2段落目第4文の解説で扱っています。

 気をつけたいのは、4の「文脈」。ここで言う「文脈」は、順接や逆接から推測しようというあくまで「論理的」な類推。勘とか雰囲気で選ぶような適当な物ではありません。往々にして「文脈」は「論理的思考のできない人間の逃げ場」になりがちです。「訳して通じる方で」とか言うのですが、実際には「自分の気に入った方向」でしかないですし、要するに「勘」です。これでは、巧く行く場合があるにしても、いずれ行き詰まります。


 oftenは「しばしば」と訳すと考える人が多いでしょうが、それでおかしい場合は、「頻度が高い」ことを表すわけですから「〜なことが多い」とやれば巧くいきます。



It would seem [that some people (who rate their memory as extremely good) simply forget just [how often they forget]].
自分の記憶力を極端に良いと評価する人の中には、単に、自分がどれだけ頻繁に忘れているかを忘れている、ということも多いようだ。

 まずIt seems that SV「SVように思われる」は問題ないでしょう。問題は、そこに入り込んでいるwouldの方ですね。
 wouldに限らず、助動詞の過去形を見たら仮定法を疑うのは定石ですが、今回は、ifに当たる語句がありません。副詞もないですし、itは漠然と状況を表す物(転向や時刻などを表すときに主語になるitと同類)ですから主語にifの意味を込めるわけにも行きません。また、wouldには「過去の習慣」や「意志」などの意味もありますが、いずれも今回は通じません。
 そのため、今回は「仮定法」ではなく「婉曲」と考えることになります。Will you...?よりWould you...?の方が遠回しになる、というのと同じです。たしかに、that以下は「自分が忘れてることすら忘れるおバカさん」ということになるので、遠回しな言い方にしたのでしょう。

 that以下、主語であるはずのsome peopleにwho rate...がついているので、whoから( )開始。1つのかたまりに動詞は1つですから、forgetを外に出します。simplyは直前からforgetを修飾しているので、goodまでが( )。
 ここに、rate A as Bという語法が使われていますが、分かったでしょうか。Vt A as Bは「AをBと思う」と訳すのが原則です。代表のregard A as Bは有名ですね。rate「評価する」もざっくり区分すれば「思う」という意味合いなので、この仲間だと考えて訳しましょう。ちなみに、前置詞asは前置詞だから後ろに名詞をとるのが原則ですが、V A as Bの場合、Bに形容詞をとることも可能です。

 forgetの後ろにhow SVがありますから、そこは[ ]。howの後ろにすぐ副詞のoftenがくっついているので、このhowは「程度」ですね。

It would seem [that some people (who rate their memory as extremely good) simply forget just [how often they forget]].

 自分の記憶力を極端に良いと思っている人の中には、単に自分がいかに忘れることが多いかを忘れているだけ、という人もいるように思われる。



Meanwhile, those (who notice every time their memory fails them ―and report that incident to their friends, or even their doctor―) are often indirectly showing just [how sharp their memory is], <to be able to recall these incidents in such detail>.
一方、自分が忘れるたびごとに気付く、つまり忘れたことを友人やあるいは医者にさえ報告するような人は、しばしば間接的に、ただ自分の記憶力の鋭さを示しているだけなのである。というのは、自分が忘れたという事実をそれほど詳細に思い出せるからである。

 meanwhileは「一方」という意味の接続副詞。

 those who SVは「SVする人々」。noticeの後のevery time SVですが、これはwhenever SVと同様の意味になる< >ですね。「every timeが接続詞として働く」ということを押さえておきましょう。

 failはふつうは「失敗する」という自動詞ですが、今回は目的語があるので他動詞です。「失敗する」ならば「fail in A Aに失敗する」となるので、今回は「失敗する」と訳してはなりません。
 fail+人で「〜の役に立たない」という意味があるのですが、頻度を考えると高校生が覚えるべき意味とも思えません。

 ここは、meanwhileという接続語によって、前後の文に「対比関係がある」ことを利用して考えてみましょう。
 前後の文を並べてみます。

some people( 〜 ) forget [how often they forget]
those who      notice  <every time SV>

 some people と whose がほぼ同じ意味ですし、(主節と従属節中という違いはありますが)forget と notice は反対の意味になります。また、notice every time SV「SVするたびごとに気付く」は、要するに「SVすることに毎回気付く」と理解することができます(「外を人が歩いているたびに気付く」という場合、「外を人が歩いていること」に気付くんですよね?)。であれば、every time SVの部分をnotice目的語、つまり[ ]と解釈しても構いません。
 meanwhile「一方」で対比構造になっていることを考えれば、前文は「人々は[ ]を忘れる」で、後文は「人々は[ ]に気付く」です。どう考えても、それぞれの文の[ ]は同じ内容になりますね。つまり、their memory fails themは「忘れる」という意味になると類推できるわけです。
 これ、先ほど説明した「未知の単語の類推法」の4番目、「文脈判断」を利用した類推です。


 ―(ダッシュ)は一般に「つまり」と訳すことが多いですが、その前に書いてある内容の補足説明と考えましょう。「物を忘れてしまうたびごとに気付く」ということに追加説明を加えているわけです。

 incidentは「in(中に)+cident(落ちる)」で、不意に起きるマイナスの出来事を指します。この場合は具体的には、「忘れること」ですね。

 whoからの( )は2つ目のダッシュでようやく終わり。主節の動詞はare showingです。目的語はhow以下コンマまで。to be以下の処理は後でやりましょう。

 how sharp their memory isですが、sharpは元々be動詞の後ろですから、「彼らの記憶力がいかに鋭いか」ですね。

 さて、to doの部分。コンマで切れていますから形容詞的用法の可能性はないですし、ここまででSVOがそろっているので、名詞的用法の可能性もありません。名詞ならば、基本的に文の要素になっているはずですからね。ということは、副詞的用法の不定詞です。ここで、副詞的用法不定詞についてまとめておきましょう。

副詞的用法のto do

1.目的「〜するために」
2.結果「(…して)その結果〜する」
3.感情の原因「〜して」
(直前が感情を表す形容詞)
4.判断の根拠「〜するなんて・〜するとは」
5.形容詞限定
(A is 形容詞 to 不完全な不定詞句.の形になっている)

 詳しくは準動詞 1 も見ておいてください。

 今回の場合、とりあえず3と5はないというのは見ただけで分かります。また、前の文が「忘れることに気付く人は、ただ自分の記憶力が鋭いのを示しているだけだ」という内容なので、そこに「思い出せるために」「その結果思い出せるのだ」というのは明らかに文意が通じません。また、考えてみれば「忘れることに気付くことが、なぜ記憶力の鋭さを示すことになるのか」という疑問点が解消されていません。後ろのto do以下で、その疑問点を解消する、つまり「記憶力の鋭さを示しているのだ」と筆者が判断した根拠が示されていると考えれば良いわけです。基本は「〜するなんて」と訳しますが、「判断の理由」なので「というのは〜だからだ」と訳しても構いません。

 訳はこうなります。

 一方、自分が忘れるたびごとに気付く、つまり忘れたことを友人やあるいは医者にさえ報告するような人は、しばしば間接的に、ただ自分の記憶力の鋭さを示しているだけなのである。というのは、自分が忘れたという事実をそれほど詳細に思い出せるからである。