過去完了形と未来完了形について見ていきます。
1.過去完了形
「had +過去分詞」を過去完了形と呼び、大きく分けて「過去完了」と「大過去」の二つの用法があります。
まずは分かりやすい過去完了の方から見ていきましょう。
(i) 過去完了
過去完了とは、文字通り、現在完了の「過去版」です。
現在完了は、現在までの完了・経験・継続を表しました。
過去完了は、過去のある時点までの完了・経験・継続を表すのです。
1.完了・結果「〜した」「〜したところだった」
ex.1−1 When we arrived at the station, the train had already left.
「私たちが駅に着いたとき、電車は既に出てしまっていた」
2.経験「〜したことがあった」
ex.1−2 I had never seen a Koala until I went to Australia.
「私はオーストラリアに行くまでコアラを見たことがなかった」
3.継続「〜していた」「〜し続けていた」
ex.1−3 Peter had been waiting for an hour when she arrived.
「彼女が到着したとき、ピーターは1時間待っていた」
現在完了の場合、基準点になる現在は「まさに今このとき」しかないので、わざわざnowとかtill nowなど書かなくても問題ないのですが、過去の場合、1秒前も過去なら50億年前も過去。過去は過去でもいつの過去なのかはっきりしないと、いつまでの完了・経験・継続なのか、基準点が分かりません。なので、過去完了の場合、「いつまでの完了・経験・継続なのか」を示す過去の副詞(句・節)があるのが普通です(例文の下線部が引いてあるのが、基準点です)。文法問題の場合、そういった基準点を示す副詞を見つけるのが、問題解答のポイントとなります。
基準点が過去にズレただけで、その他は現在完了と同じです。動作動詞の継続を表す場合は、完了進行形(had been doing)にするというのも、現在完了と同じです。
(ii) 大過去
順を追って説明していきます。初めは「大過去」にどうつながるのか分からないかもしれませんが、その時その時の説明を理解しつつ、とりあえずはついてきて下さい。
さて、この日本語を英語にしてみましょう。
「彼女は自分が病気だと言っている」
難しくないですね。She says she is ill.です。
では、「彼女は病気だったと言っている」は?
これも問題ないですね。She says she was ill.です。
では、「彼女は病気だと言った」は?
「She said she is ill」としてしまった人、残念でした。
時間の数直線を書いて、日本語の内容を整理してみましょう。
現在
「彼女は病気だと言っている」 ――|―――――|――→
言っている
病気
現在
「彼女は病気だったと言っている」 ――|―――――|――→
病気 言っている
現在
「彼女は病気だと言った」 ――|―――――|――→
言った
病気
日本語では、主節(「彼女は言う」の部分)と同じ時制なら従属節(「病気だ」の部分)は現在形、主節より前の時制だと過去形になる、という性質があります。日本語の場合、従属節の時制は、主節の時制を中心に決まる、というきわめて主観的な言語なのですね。
では、英語はどうか。英語は、日本語とは違い、客観的に時制を決定します。
つまり、その動作が過去であれば、主節の時制が何であろうと、過去形を使うのです。
ですから、「彼女は病気だと言った」を英訳すると、「病気」なのも過去、「言った」のも過去ですから、She said she was ill.となるのです。
これは難しいルールではありませんね。過去のことは過去で、という当たり前と言えば当たり前のルールですから。日本語の方が、むしろ時制の表現に高度な判断を必要とするように思えます。私たちは普段、そんなことは意識もしないで喋っているわけですが。
なお、あくまで日本語を中心に考えれば、「病気だ」という現在形の表現が、「言った」という主節の過去に引きずられて英語では過去形になったように見えます。このことを、時制の一致、といいます。しかし、「英語の時制は客観的だ」と理解しておけば、敢えて覚える必要がない概念です。「主節が過去なら従属節も過去」(※1)と暗記しておけば、確かに文法問題を解くスピードは上がりますけどね。
ちなみに、この時制の一致。ひとつ例外があります。
それは、従属節に不変の真理や諺が来る場合、主節が過去だろうと関係なく現在形が使われるというものです。「不変の真理…」をやったとき、「常に現在形」と書きましたが、それは「時制の一致の適用を受けない」という意味であったのです。
※1
時制の一致に「不変の真理」以外の例外は本当にないのか、という質問をたまに受けます。
ためしに無理矢理な場合を想定してみましょうかね。
現在
――|―――――|――→
言っている 病気
予言者みたいですが、じゃぁこれを「She says she is ill.と言えるか?言えないんですね。言った時点からすれば病気に成るというのは未来予測。ゆえに、willを使わないとつじつまが合わない。
なら「She says she will be ill.」はいいかと言えば、これもダメ。予測したのは言った時点だから、過去のこと。つまり、willではなくwouldにしてやらないといけないんですね。
で、結果的には「She says she would be ill.」。wouldは使われてますが、これは助動詞の過去形。つまり、結局は従属節は過去形になってしまいました。
さて、次に「彼女は病気だったと言った」を英語にしてみましょう。
意味内容を考えて時間直線を書くと、こうなりますね。
現在
「彼女は病気だったと言った」 ―|――――|――――|――→
病気 言った
英語は客観的に時制を表現する、となると、「言った」はsaidです。じゃぁ「病気だった」はどうするか。
ここで登場するのが「大過去」という概念です。過去よりも過去のことだから大過去、単純なネーミングですね。この大過去を、英語ではhad doneという過去完了形で表すのです。
つまり、「She said she had been ill.」が正解。
まとめ直しておきましょう。
現在
「彼女は病気だと言っている」 ――|―――――|――→ She says she is ill.
言っている
病気
現在
「彼女は病気だったと言っている」 ――|―――――|――→ She says she was ill.
病気 言っている
現在
「彼女は病気だと言った」 ――|―――――|――→ She said she was ill.
言った
病気
現在
「彼女は病気だったと言った」 ―|――――|――――|――→ She said she had been ill.
病気 言った
この大過去ですが、過去より前のことを表す場合にいつも使うわけではありません。過去をどんどん遡る話をする際に、例えば桃太郎の話を鬼退治から遡っていった場合に、お爺さんが芝刈りに行くシーンでは大過去や大大過去くらいではとても追いつきません。
大過去は、過去と誤解されてしまう可能性がある場合に使われます。具体的に言えば、文の順番と時間の順番が逆になる場合に用いられる、ということです。
ex.2−1 The secretary opened the mail which had been delivered that morning.
「秘書は、その日の朝届けられた郵便物を開けた」
この文も、
ex.2−2 A mail was delivered that morning, and the secretary opened it.
とすれば、大過去を使わずに表現できるのです。
2.未来完了形
現在までの完了・経験・継続を表す現在完了形、過去のある時点までの完了・経験・継続を表す過去完了形があるならば、当然、未来のある時点までの完了・経験・継続を表す未来完了形も存在します。
未来完了形は、will have doneで表します。
1.完了・結果「〜しているだろう」「〜したところだろう」
ex.3−1 The concert will have finished by the time we get there.
「そこに着くときまでに、コンサートは終わっているだろう」
2.経験「〜したことになるだろう」
ex.3−2 I will have visited Kyoto three times when I go to Uzumasa next month.
「来月太秦を訪れれば、私は京都を3回訪れたことになる」
3.継続「〜していることになる」「〜し続けているだろう」
ex.3−3 I will have studied English for six years by next March.
「来年3月で6年間英語を勉強したことになる」
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