無生物主語構文                          前のページへ戻る

 
 無生物主語構文とは、文字通り無生物が主語になった構文……と、今の時点では理解しておきましょう。
 例えば、「雨が、私が釣りに行くのを妨げた」というような文。無生物である「雨」が私の動作を「妨げる」なんて、おかしな表現のしかたです。しかしながら、英語では、これは決しておかしな表現ではなく、むしろ普通に見られる言い方なのです。
 日本語では違和感のある表現。それゆえに、学生諸君には分かりづらく、無理矢理暗記で乗り切っても理解が伴わないゆえのもどかしさを感じる、要するに「苦手分野」であることが多いようです。

 なお、実は、「無生物主語構文は主語が無生物である」というのは、正確な定義ではありません。種明かしはちゃんとあとに用意してあるので、まずは、「無生物が主語になる日本語には見られない表現」と理解したうえで、解説を読み進めてみてください。


1.無生物主語構文の訳しかた

 先に見たように、無生物主語構文というのは日本語ではおかしな表現になりがちです。
 よって、無生物主語構文に関しては、まずは和訳の方法を押さえるのが先決です。

無生物主語構文の訳しかた

1.主語を副詞として訳す
2.目的語を主語として訳す
3.補語、準動詞部分を述語のように訳す


 とりあえず、例文を使ってやってみましょうか。

ex.1 His height makes him stand out in a crowd.

 まず直訳してみましょう。make A doは「Aに〜させる」ですから、
彼の高さは 彼に 群衆の中で目立たせる
 となります。分からなくはないですが、不自然極まりないですね。

 これを、上のルールに則って訳してみましょう。
 主語の「His hight」を副詞にします。副詞というのは、具体的には理由条件手段ですが、文脈に応じて相応しい訳を考えましょう。どうしてもいい訳が浮かばないときは、「〜によって」とすれば殆どカバーできます。
 例文の場合、「彼の身長によって」とすれば良いでしょう。また、副詞にする際、節の形にする・動詞を入れるのが日本語らしくするコツです。「彼は身長があるので」とすれば最高でしょう。

 次に、目的語を主語にします。himを主語「彼は」とします。
 そして、補語のstand outを述語にします。「彼は目立つ」とすればいいのですね。

 最終的に、重複するところを巧く省いて日本語らしい意訳にすると、こうなります。

彼は身長があるので、人混みの中で目立つ

 さっきの直訳とは大違いですね。


 一応、理屈を説明しておきます。

 無生物主語構文は、基本的に第5文型SVOCの構文をとります

 このSVOC。O=Cが成り立つことは、既に文型のところで説明していますね。「O= C」ということは「OはCだ」ということなので、SVOCにおいて、OとCのところにSV関係が存在することは理解できると思います。例えば、「The accident made her sad.」なら「She was sad」と言えますし、「Please let me know.」なら「I know.」という状態が目的になりますし、「He asked me to wait here.」なら「I waitという状態が求められているわけです。このような、隠れたSV関係がSVOCには存在するのです。

 さて、第5文型とは、どんな文型か。
 第5文型動詞の代表はmakeですが、make OC「SはOをCにする」ということは、SはOがCになるための原因と解釈することができます。つまり、第5文型における主語は、動作主というよりは、因果関係の出発点と理解するのが正確なのです。主語が原因となって、OがCという状態を引き起こすというのが、第5文型の基本概念なのです(上の段で例に挙げた「made」も「let」も「ask」も「引き起こす」という訳しかたで意味はじゅうぶん通じますよね?)。
 図式化すれば、第5文型とは、「主語=原因」→「OC=結果」なのです。

 日本語では、主語は動作主に他なりませんから、動作を行えないような物質、つまり無生物が主語になるということはありません(あるとすればそれは英語に影響を受けた表現である可能性が高いのです)。しかし英語の第5文型では、因果関係の出発点であれば主語になる資格を持てるので、動作を行えないような無生物も、主語の位置に着くことができます。
 
 ここまで説明すればもうおわかりでしょう。
 無生物主語構文における主語は「因果関係の出発点」に過ぎないので、副詞的な訳しかたになり、目的語・補語の部分は、そこに隠れた主述関係が存在するので、主語・述語として訳すのです。

 Ten minutes' walk will lead you to the park.という文は、厳密にはto the parkはMなのでSVOですが、ざっくりと考えれば、you = to the parkなのでSVOCと捉えることが可能です。よって同様に、「Ten minutes' walk =原因」「you to the park =結果」と考え、無生物主語構文の訳を適用することができます。


 話を戻しましょう。

 「無生物主語構文の訳しかた」のルールを覚えれば、そしてある程度練習を積めば、和訳は簡単にできるようになります。
 ただ、英作文などに対応するためには、それだけではたりません。

 ではどうするか。
 「違和感だらけの直訳」をそのまま英語にすれば、無生物主語構文の英文が作れます。英文を直訳したのが「違和感だらけの直訳」ですから、当たり前です。ということは、「違和感だらけの直訳」は、案外おろそかにできないということです。「直訳」の感覚が掴めていれば、無生物主語構文の英文が書けるわけですから。
 具体的には、無生物主語構文を見た場合に、意訳をするだけでなく、必ず頭の中で直訳をするようにしましょう(無生物主語構文に限らず、英熟語の暗記の際にも必ず「直訳→意訳」の思考回路を作っておきましょう。英語話者の思考回路をイメージできるようになりますし、そしてど忘れしたときの記憶復活の鍵にもなりますよ)。


 さて、ちょっと練習しておきましょう。それぞれ、直訳と意訳をしてみましょう。

ex.2 This medicine will make you feel better.
ex.3 Their pride prevented them from accepting our offer.
ex.4 This bus will take you to the station.
ex.5 Newspaper tells us what is going on in the world.
ex.6 This picture reminds me of the good old days.
ex.7 What made you say such a nonsense?

 ex.2 「この薬はあなたを気分良くさせるだろう」→「この薬を飲めばあなたは気分が良くなるだろう」
 ex.3 「彼らのプライドは彼らが我々の申し出を受け入れるのを妨げた」
     →「彼らはプライドが高いので、私たちの申し出を受けなかった」
 ex.4 「このバスはあなたを駅へ連れて行くだろう」→「このバスに乗ればあなたは駅へ行けるだろう」
 ex.5 「新聞は私たちに世界で起きていることを伝える」
     →「新聞を読めば私たちは世界で起きていることを知ることができる」
 ex.6 「この写真は私に古き良き時代を思い出させる」
     →「この写真を見ると私は古き良き時代を思い出す」
 ex.7 「何があなたにそんな馬鹿げたことを言わせたのか」
     →「なぜあなたはそんな馬鹿げたことを言ったのか」


 ちなみに……
 日本語でも、無生物主語構文的な表現は使われるようになってきています。おそらくは、明治以降に外国語の影響を受けてのことだと思います。
 無生物主語構文でも、日本語として違和感がなければ直訳のままでかまいません。「無生物主語構文だから何が何でも主語を副詞的に…」と考えず、「違和感が生じたら違約をしてみる」という考えで挑むのが良いと思います。



2.無生物主語構文でよく使われる動詞

 訳しかたが分かっても、「この文は無生物主語構文だ」と気付かなければ、実際の問題では役に立ちません。そこで、無生物主語構文だと見抜く方法を覚えておく必要があります。

 冒頭で、無生物主語構文の定義について、少し曖昧な言い方をしました。「無生物主語構文は主語が無生物である」というのは、正確な定義ではありません、と。
 これ、考えてみれば誤った定義ということはすぐに分かります。主語が無生物だから無生物主語構文であるというのなら、「This pen is mine.」は無生物主語構文か?「このペンによって私の物は…」……明らかに違いますね?

 実は、無生物主語構文かどうかは動詞で決まるのです。無生物が主語であっても、動詞が「無生物主語構文用の動詞」でなければ、普通の訳しかたをして構いません。逆に、「無生物主語構文用の動詞」が使われていれば、主語が仮に生物であっても、無生物主語構文の訳しかたを適用した方がきれいな日本語になる場合が殆どなのです。

 無生物主語構文を制するには、使われる動詞を制する必要があります。

 ということで、まとめましょう。

無生物主語構文で使われる動詞

「〜させる」→「〜する」
 make A do / force A todo / compel A to do強制のニュアンス
 let A do / allow A to do許可・放任のニュアンス
 cause A to do元は「引き起こす、原因となる」
 enable A to do元は「可能にさせる」のニュアンス。よって「〜できる」という意訳になる

「〜するのを妨げる」→「〜できない、しない」

 prevent A from doing / keep A from doing / stop A from doing


「思い出させる」→「思い出す」
 remind A of B元は「AにBを思い出させる」)            

「連れて行く」→「行ける」
 take A to B / bring A to B / lead A to B

「伝える、示す」→「分かる」
(この場合は主語が無生物の時のみ無生物主語構文の訳をすると良い)
 tell OO / show OO / say that SV / show that SV / suggest that SV



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